映画の「死国」を見た事がきっかけで存在を知った坂東眞砂子のサスペンス小説。
同映画では四国八十八か所を逆から回ると死者が蘇る、といった骨子でストーリーが展開する。
この映画のおかげか、八十八か所を逆周すると縁起が悪いみたいな風潮があるが、実際は逆だ。
通常の順路でお遍路をすると、大体他の人ともペースが同じなので同じような顔ぶれでスタートからゴールまで歩くことになる。
ただ、逆から回ると次々に色々なお遍路さんに出会う為、多くのご利益がある、と言う意味で普通の三倍のご利益がある、らしい。
坂東自身が高知県の出身の為、執筆されてた小説の多くが四国を舞台にしている。
「くちぬい」も四国の寒村が舞台となり、東京から田舎でのんびりした生活に憧れて夫婦が移住してくる所から話が始まる。
閉鎖的な空気感や、田舎独特の濃い人間関係が、小説ほど極端では無いにしても「これに近い事あるよなー」と思ってしまう。
どこにでも居る夫婦が主人公だけど、それぞれに悩みを抱えながら生活している。
そして移住をきっかけに熟年の夫婦ならではの、我慢していた事が表面化してお互いの関係がゆっくりと壊れていく……。
ストーリーの中盤くらいまではホラーかと思ったけど「もしかして…」と思わせつつ、終盤にミステリー色が強くなる展開になるので、後半は思わず一気読みした。
「日本の田舎×濃密な人間関係×ミステリー」と言うフェチでニッチな分野では、個人的に定評のある坂東眞砂子らしい結末だった。
池井戸潤の様な勧善懲悪でスカッと終わる小説では一切無いが、人間のドロドロした感情をストーリーが進むと共に煮詰めて凝縮していく、そんな展開に引き込まれる小説だった。